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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2936号 判決 1967年9月12日

控訴人 佐藤司

右訴訟代理人弁護士 新宮賢蔵

被控訴人 種岡辰子

右訴訟代理人弁護士 高畠春二

主文

本件訴訟は和解により終了した。

被控訴人の和解調書無効申請書提出以後の控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実

被控訴人は「昭和四二年七月一五日の本件口頭弁論調書に成立したとして記載されている和解は成立していない。すなわち、被控訴人は、その訴外瀬沼君子に対する債権は元利合計で約一八五万円になるので、右期日において控訴人に対し一五〇万円の支払を要求したところ、控訴人がこれに対し一〇〇万円まで支払うことを承諾したので、被控訴人はさらにこれに対し一〇〇万円は内金として支払ってもらい、残金五〇万円については、これを担保するため本件建物(原判決添付目録記載)に抵当権を設定してもらいたい旨を申し述べたつもりであり、本件和解条項のように一〇〇万円を受取って訴訟を終了させる意思はなく、また、そのような意思を表示したこともない」と述べ、控訴代理人は被控訴人の主張事実を否認した。

理由

本件記録によれば、本件訴訟は被控訴人が控訴人に対し、詐害行為を理由として瀬沼君子との間の本件建物に関する売買の取消及びその所有権移転登記の抹消を求めるものであり、被控訴人主張の本件口頭弁論調書には、控訴人は被控訴人からその瀬沼に対する債権のうち一〇〇万円について譲渡を受け、その代金として一〇〇万円を支払うこととし、被控訴人は本訴請求を放棄する等の条項の和解が成立した旨の記載があることは明白である。

ところが、被控訴人は、本件和解条項を受諾する意思はなく、また、そのような意思を表示したこともない旨主張するので、この点について判断する。

被控訴人は、当初その主張のような条件を主張して本件和解条項の受諾について難色を示していたけれども、被控訴代理人から利害得失をあげての熱心な説得を受けた結果、その内容も説明を受けて十分承知の上、これを受諾したことは当裁判所に顕著であり、被控訴人にこれを受諾する意思がなかったなどということは到底あり得ない。なお、被控訴人は瀬沼に対し元利合計一八五万円の債権を有しているというけれども、本件記録によれば、瀬沼は昭和三九年一〇月当時、被控訴人、控訴人及び訴外目黒信用金庫に対する債務を除いて、合計三七八万円以上の債務を負担していたこと、控訴人は同年一〇月七日瀬沼から本件建物を代金二五〇万円で買受け、右代金債務と同人に対する同年九月二五日付消費貸借契約に基く同額の債権(そのうち一一八万二〇〇〇円は同人が本件建物について昭和三五年八月一七日設定して同月二九日その設定登記を了した根抵当権によって担保された目黒信用金庫に対する債務の弁済による求償債権を目的とするもの)とを瀬沼と合意で相殺したこと、本件建物(敷地の借地権を含む。)の昭和四一年一月当時の価格は三三五万一〇〇〇円であることが認められ、右事実によれば、本件売買が取消されても、本件建物を処分して得られる金員のうち瀬沼に対する一般債権の弁済にあてられるのは右価格から控訴人の右求償債権一一八万二〇〇〇円を控除した約二一六万円であるのに、右優先債権を除く一般債権の総額は、被控訴人、控訴人の各債権を加えると、六〇〇万円を越えることになる。従って、被控訴人が前記金員から弁済を受けうる金額は七〇万円にみたないことが予想され、被控訴人にとって本件訴訟を続けるよりも本件和解を成立させた方がはるかに有利であることがうかがわれるから、被控訴代理人が被控訴人に対し本件和解条項を受諾するように熱心に説得したことも十分うなずけることである。

よって、本件訴訟が和解により終了したことは明白であるから、被控訴人の和解調書無効申請書提出以後の控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 近藤完爾 裁判官 田嶋重徳 小堀勇)

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